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体重減少薬の知られざる側面

  • 執筆者の写真: Takumi Zamami
    Takumi Zamami
  • 2025年12月22日
  • 読了時間: 3分

“夢の薬”に潜む、まだ見ぬリスクとは



体重減少薬をめぐる市場は、今や製薬業界の成長を象徴する存在となっている。


糖尿病薬「マウンジャロ」と肥満治療薬「ゼップバウンド」を擁するイーライ・リリーは、ついに時価総額1兆ドルを突破し、世界初のヘルスケア企業として新たな地平を切り開いた。


これらの薬の主成分であるGLP-1受容体作動薬は、血糖コントロールに加え、食欲を抑制し、心血管疾患のリスクを減らすという複合的な効果を持つとされ、まさに「現代の奇跡の薬」として注目を集めている。


しかし、その華々しい成功の陰で、GLP-1薬の長期的な安全性や副作用には依然として不透明な部分が多い。


最近の研究では、アルツハイマー病患者を対象にした臨床試験で、薬の有効性が確認されなかったことが報告された。脳内炎症を抑え、神経細胞を守る可能性があると期待されたものの、認知症の進行を止めることはできなかったのである。専門家たちはこの結果を「落胆」と受け止めつつも、健康な段階での予防効果など、別の可能性を探る研究を続けている。


妊娠や出産をめぐる問題も浮上している。GLP-1薬は妊娠を希望する2か月前には服用を中止するよう勧告されているが、実際には多くの人が薬をやめた後に急激な体重増加を経験している。妊娠糖尿病や高血圧、早産のリスクを高める可能性があるとする研究もある一方、逆にそれらのリスクを減らすとする報告もあり、科学的な結論は出ていない。


また、出産後の減量目的で薬を再開するケースがデンマークなどで増加しているが、母体や授乳、脳のホルモン変化にどのような影響を及ぼすかはまったく分かっていない。


さらに懸念されるのは「薬をやめられない体」だ。チルゼパチド(ゼップバウンド)を36週間服用した後に中止した被験者の多くが、失った体重の25%以上をリバウンドし、9%は治療開始時よりも体重が増加していた。心血管の健康状態も悪化し、研究者の間では「この薬は一生飲み続ける必要があるのではないか」という議論が広がっている。


一方で、依存症治療などへの応用可能性も模索されている。GLP-1薬は、喫煙や飲酒の欲求を抑えるという報告もあり、神経系への影響が注目されている。しかし、長期的な服用が子どもや健康体の人に与える影響については未知数である。


このように、GLP-1薬は医療とライフスタイルの境界線を揺さぶる存在となった。製薬企業はこの巨大市場をめぐって激しい競争を繰り広げ、投資家は次の成長エンジンとして熱視線を送る。しかし、科学的根拠の不足や倫理的懸念、長期安全性の不明確さを抱えたまま市場が先行すれば、それは新たな「医療バブル」を生む可能性もある。


体重減少薬は、肥満を「努力不足」ではなく「治療可能な疾患」として再定義した点で、人類の医療史に残る革新であることは間違いない。だが、真の意味で社会に定着するためには、熱狂よりも冷静な検証と、長期的な視野に立った制度設計が求められている。


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