【ビル・ゲイツ】気候危機を救う最大の武器は“人間の創造力”だ
- Takumi Zamami

- 10月25日
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世界は2015年のパリ協定で掲げた温暖化抑制目標を達成できないことが、ほぼ確実になっている。政治家や企業の責任を指摘する声は多いが、根本的な問題は、排出削減を実現するための技術がまだ十分に存在せず、また多くの既存技術が依然として高コストであることだ。
だがビル・ゲイツ氏はこれを悲観ではなく「人類の創造力への信頼」として捉える。彼によれば、過去10年間の技術革新によって2040年の予測排出量はすでに40%減少しており、この流れをさらに加速させることができれば、目標に近づく可能性はあるという。
ゲイツ氏は20年以上にわたり気候変動の研究と投資を続け、2015年に設立した「ブレイクスルー・エナジー(Breakthrough Energy)」を通じて150社以上のクリーンテック企業を支援してきた。フェルボ・エナジー(地熱発電)やレッドウッド・マテリアルズ(EVバッテリーリサイクル)など、その中にはすでに世界市場で存在感を示す企業もある。彼の見立てでは、気候テクノロジーは公共善であると同時に、今後の経済を根本から作り変える巨大産業でもある。エネルギー市場、製造業、輸送、農業、建築など、あらゆる分野が再定義されることになるという。
こうした転換を測るうえで、ゲイツ氏が提示する概念が「グリーンプレミアム」である。これは、従来の化石燃料ベースの方法と比べて、クリーンな方法で同じことを行う際のコスト差を指す。たとえば、持続可能な航空燃料は通常のジェット燃料の2倍以上の価格であり、100%を超えるグリーンプレミアムを持つ。一方、太陽光や風力のように、すでに従来電源より安価なケースではマイナスのグリーンプレミアムとなる。重要なのは、環境負荷だけでなく「価格と実用性」で既存技術に勝ることである。たとえば電気自動車が広く普及するためには、充電時間がガソリン車の給油並みに短縮される必要がある。
ゲイツ氏はこのグリーンプレミアムを基準に、どの分野に最も投資インパクトがあるかを判断すべきだと述べる。差が大きい領域では、革新的な企業と投資家の参入が不可欠であり、差が小さい領域では、普及の障壁を取り除く努力が必要だという。彼は「年間0.5ギガトン、すなわち世界排出量の1%を削減できる技術なら、その企業は正しい道にいる」と語る。
政府に対しては、セクターごとにグリーンプレミアムを把握し、最も効果の高い技術に資金と政策を集中させるよう提言する。気候対策は公共政策であると同時に、経済覇権を左右する戦略領域でもある。脱炭素技術で優位に立つ国は、雇用を生み、エネルギー自立を確立し、数十年にわたる経済的優位を築けると強調する。
また若い科学者や起業家には、今こそキャリアをクリーンテクノロジーに賭ける好機だと呼びかける。ブレイクスルー・エナジーが発表した「クライメート・テック・アトラス」は、経済の脱炭素化に不可欠な技術群を体系的に整理しており、今後の産業マップを描く羅針盤となる。投資家にも、短期的リターンよりも「グリーンプレミアムを実際に縮められる企業」へ資本を投じることを推奨する。それこそが21世紀最大の成長産業への参加切符になるという。
最終的に、世界の物理的経済全体を変革するには、市場の力が不可欠である。補助金や規制だけでは持続的なインパクトは生まれない。コストと利便性の両面で化石燃料を凌駕するビジネスモデルを構築することが、真の脱炭素への道だ。失敗を許容しながらも、長期的にリスクを取る投資家と企業が中心的な役割を果たすことになる。
ゲイツ氏は、「正しく進めば、次の10年で“未達の報告”ではなく“削減の成功例”がニュースの主流になる」と締めくくる。清潔な液体燃料で飛ぶ航空機、ゼロ排出の鉄鋼やセメントで造られた街、そして無尽蔵のクリーン電力を生み出す核融合発電。これらの実現によって、世界中の人々が安価で安定したエネルギーを手にし、低所得国でも冷房や照明、医療用冷蔵設備が普及する。つまり脱炭素とは、気候問題の解決であると同時に、すべての人が豊かに生きられる未来社会の設計図でもあるのだ。
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