【連載第2回】「産業OS」が支配する時代の競争戦略:重心(COG)の移動〜「作る力」から「制御する力」へ〜
- Takumi Zamami

- 10 時間前
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執筆:加登吉邦
前回は、顧客が求める価値が「製品の機能的スペック」から「均質な体験の確実性」へとシフトしている現実をお伝えしました。今回は、その「体験」を生み出す背後にある産業構造の劇的な変化——すなわち、利益の源泉の移動について解説します。
「作る力」の陳腐化と競争軸の蒸発
自動車産業はこれまで、車両性能、ブランド、販売台数、工場能力で競ってきました。これは、より良いものをより効率的に作るという「実行能力(Center of Execution:COE)」における戦いです。日本企業が世界に誇り、最も得意としてきた土俵と言えるでしょう。
しかし、ロボタクシー時代が本格化すると、この競争軸は急速に意味を失います。なぜなら、ビジネスにおける価値の源泉が「車両そのもの」から離れていくからです。
では、価値はどこへ移動するのか。それは、運転知能、フリート制御、配車アルゴリズム、保守運用、地図、需要予測、そして利用者接点といった上位レイヤーです。言い換えれば、従来のハードウェア競争の上に、都市移動を制御するソフトウェア層が乗り、その上位レイヤーが産業全体の利益を吸い上げる構造になりつつあるのです。
新たな戦略的重心(COG)と「産業OS」の脅威
この「産業における価値創造構造の中心」であり「経済価値の重力中心」となる領域を、私たちは「戦略的重心(Center of Gravity = COG)」と呼んでいます。
次世代の競争において支配的な地位を築くのは、最も効率よく実行する企業ではありません。自らの産業の戦略的重心(COG)を設計し、防御できる企業です。
モビリティの世界において、Waymoは自社ブランドの車を大量販売してシェアを奪おうとしているわけではありません。彼らは“運転知能そのもの”を車両プラットフォームに接続する側へ拡張しようとしています。単なる配車事業者ではなく、都市交通の基幹ソフトウェアを担う方向へと進んでいるのです。
NVIDIAやTesla、Amazonといった企業が体現しているように、産業のインフラ層を構築し、取引のプラットフォームを提供し、意思決定に知能を組み込む「Industrial OS(産業用オペレーティングシステム)」を構築した者が、産業のCOGを支配します。これは、純粋なハードウェアメーカーから見れば、自社の精巧な製品が単なる「OSの配下で動くモジュール(端末)」に成り下がることを意味します。
全ての重厚長大産業に波及する「制御」へのシフト
この論理は、海運や造船のような重厚長大産業にもすでに波及しています。
例えば、船舶の設計、建造、運航、カーボン管理、資産最適化までを共通データ基盤で接続する「Maritime OS」の概念が登場しています。運航データが次世代船舶設計にフィードバックされることで、実行と設計の間に学習ループが形成され、業界の重心(COG)は「データ駆動型ライフサイクル設計」へと移動しているのです。
経営層が直視すべき現実は残酷です。どれほど現場のオペレーションを磨き上げ、世界最高水準の製造効率を誇ろうとも、その上層にあるデータとソフトウェアの層(OS)を他者に握られれば、得られる利益は最小化されます。システム全体のルールを設計し、ネットワークとデータを制御する者だけが、産業の果実を独占するのです。

【経営トップへの問い】
御社の産業において、未来の「ルールを規定し、データを統合するOS(オペレーティングシステム)」に相当するものは何でしょうか?
現在、御社はそのOSを自ら設計・支配する側に回ろうとしていますか?それとも、知らず知らずのうちに、巨大なテクノロジー企業やプラットフォーマーが敷いたOSの上で稼働する「優秀なハードウェア部品」を作る競争に埋没していませんか?



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