産業機械メーカーの三製品ポートフォリオを、LCVで試算する。主力の高単価製品Aは1台あたりのLCV差分2.31億円、5年間の販売500台、採択率70%。中型の汎用製品Bは1.54億円、800台、55%。小型の廉価製品Cは0.87億円、2,000台、40%。
価値創造額は、製品Aが808.5億円、製品Bが677.6億円、そして製品Cが696.0億円。1台あたりのLCV差分で見れば製品Aは製品Cの2.7倍だが、事業全体への貢献では、ほぼ並ぶ。
多くの経営者はこの表を「高付加価値製品に集中せよ」という主張の裏づけとして読もうとする。だがこの試算は、それを支持していない。
三項の積であって、単価は一項にすぎない
ポートフォリオの価値創造額は、1台あたりLCV差分 × 販売台数 × 採択率という三項の積である。単価はそのうちの一項にすぎない。台数が4倍あれば、単価の劣位は容易に逆転する。LCV戦略と高付加価値シフトは、同義ではない。しばしば正反対を指す。
Σの罠 ―― 第1回で釘を刺したこと
ここで、この連載の出発点をもう一度確認しておきたい。ポートフォリオの合計はΣ(A×B×C)であり、案件間の関係は純然たる加算である。「LCVは掛け算だから事業は指数関数的に伸びる」という語りは、単一資産の内部と事業全体を混同している。
乗算が起きるのは、1台の中だけだ。事業レベルで起きるのは、足し算と、三項の積である。この区別が崩れた瞬間、LCVは経営計器であることをやめ、販促資料になる。連載を通じて最も繰り返し確認してきた境界が、ここにある。
ポートフォリオLCVは、単価×台数×採択率の三項の積である。単価はそのうちの一項にすぎない。
三項のうち、自社が動かせるのはどれか
実務的な問いは「どれが大きいか」ではなく「どれを動かせるか」だ。1台あたりの差分は、製品仕様と市場が決める。動かしにくい。販売台数は市況が決める。これも動かしにくい。
残る一項、採択率だけが自社の設計変数である。第2回の結論がここで効いてくる。ポートフォリオ戦略の実務的な意味は「どの製品に集中するか」ではなく、「どの製品群の採択率を、どの順序で上げるか」である。
廉価製品の逆説
そして低単価・多台数の製品ほど、採択率は低い傾向にある。サービス契約の相対負担が重く、顧客側の管理能力が低く、販売経路が間接的だからだ。裏を返せば、廉価製品は三項のうち最も改善余地の大きい項を抱えている。
主力製品の採択率を70%から80%へ引き上げるより、廉価製品を40%から55%へ引き上げるほうが、価値創造額の増分が大きい――そういう事態は珍しくない。産業OS化の最初の一手を主力製品に置くという直感は、しばしば誤りである。
留保、そしてCEOへの問い
公平を期して言えば、三項は独立ではない。採択率を上げる施策のコストは製品単価に対して逆進的であり、廉価製品ほど1台あたりの獲得コストが重くのしかかる。三項の積は単純な最大化問題ではなく、制約付きの配分問題だ。また、ここに示した数値はあくまで一つのベースケースであり、他社の比率表を借りてくることに意味はない。
御社の産業OS化は、どの製品から始めることになっているか。そしてその選択は、「主力だから」という理由だけで決まっていないか。
高付加価値シフトとLCV戦略は、同義ではない。しばしば正反対を指す。
ポートフォリオLCVの試算例(3製品3,300台・価値創造額2,182億円)は、LONGNOW産業OS理論書 第16章による。試算は特定のベースケースに基づく例示であり、自社パラメータでの再計算を前提とする。