仁川の沖合を埋め立てた土地に、松島国際都市がある。干潟の埋立が1994年に始まり、2003年に仁川経済自由区域の一部として指定された。完成の目標は2030年に置かれている。
2025年末の時点で、この街には230,570人が住んでいる。人が来なかったわけではない。
ただし、街を満たした住民像は、計画が前面に置いた国際的な住民像とは違っていた。
01 設計されたのは、国際業務都市だった
松島が掲げたのは、北東アジアの国際業務拠点である。外国企業の地域拠点を集め、外国人が働き暮らす街をつくる。そのために税制上の優遇を用意し、国際学校を置き、緑の気候基金をはじめとする国際機関を迎えた。
技術の側でも先に出た。更地から築くグリーンフィールド型の開発として、「世界初のスマートシティ」とも称された。センサーで交通を捉え、廃棄物を地下の管で運び、複数の地区の状態を一つの運営センターで見る。データ基盤を先に敷いてから人を迎える、という順序だった。
その結果はどうか。2025年末の外国人居住者は6,182人。総人口に対して3%に満たない。当初描かれた国際的な共同体には、届いていない。
02 実際に来たのは、別の住民だった
人口は2007年1月に20,504人、2010年1月に34,070人。そこから20万人を超えるまで伸びた。空室の目立つ街として報じられた時期を抜けて、いま人は住んでいる。
コーネル工科大学のケーススタディでは、住民の平均世帯所得は韓国の平均の約1.4倍で、上位中間層の家族が中心だとされる。
計画が前面に置いた住民像と、実際の住民層は重なっていない。
03 引力の一つは、学校だった
何が人を動かしたのか。
教育の環境が、大きな引力になった。松島には幼稚園から高校までを擁する国際学校がある。2010年代半ばには、地域の中学校が全国の学力評価で高い成績を示し、教育を理由に転入する家庭が増えたと報じられた。ソウルへの通勤圏にありながら、緑地が広く、住宅が新しいという条件も重なる。
第1回のFriscoで見たのは、学区を軸に人材を呼び寄せた都市だった。第2回のヘルシンキで見たのは、学校への配分を通じて地区の定着を支える都市だった。
松島で実際に働いた引力も、これと重なる。前面に置かれた技術だけではない。住民の流入を支えた大きな引力の一つは、学校だった。
【命題】
都市が用意した引力と、実際に働いた引力は、一致するとはかぎらない。住民は設計図ではなく、生活の条件を見て選ぶ。
04 外れた側にも、物差しは当てられる
ここで問いを変えたい。松島は失敗したのか。
国際業務都市という目標に照らせば、届いていない。外国企業も外国人住民も、想定から遠い。
この連載の物差しを当てると、別の像が出る。20万人を超える人が住み、その多くが子どものいる家族である。教育を理由に移った世帯には、学年の途中で動くことを避ける理由が生まれる。学校は、住み続ける年数を伸ばしうる条件になる。松島は、掲げた目標では測れないものを積んでいる。
ただし、ここには注意も要る。先のケーススタディでは、住民は上位中間層の家族が中心とされる。これが正しければ、松島の偏りは強い側に寄っていることになる。第2回のヘルシンキが指数で追っていた偏りとは、向きが逆である。向きが逆なだけで、偏っている点は変わらない。
都市は引力を並べることはできる。どれが効くかまでは決められない。並べられるのは条件であり、そのどれが人を動かしたのかは、人が住み始めてから見えてくる。
次回はコペンハーゲン。市有地の値上がりで地下鉄を自前で賄った仕組みを追う。
注:2025年末の人口と外国人数は仁川経済自由区域庁の公表統計による。2007年および2010年の人口は各年1月時点の学術研究掲載値で、同庁の年末系列とは基準時点が異なる。世帯所得はコーネル工科大学のケーススタディによる。外国人の割合は、国籍で数えるか国際機関・国際学校との関係で数えるかにより幅があり、本文は前者を用いた。学力評価と転入に関する記述は2010年代半ばの報道による。いずれも2026年9月時点で確認できる内容にもとづく。