ノルウェーで現在建設が進められている「ログファスト(Rogfast)」は、完成すれば世界最長かつ最深の海底道路トンネルとなる前例のない巨大インフラプロジェクトです。全長26.7キロメートル、海面下の最大深度は390メートルに達し、南西部の主要都市であるスタヴァンゲルとベルゲンを結びます。2033年の全線開通時には、これまで利用されていた2つのフェリールートが不要となり、約5時間の移動時間を40分短縮することが見込まれています。現在は2029年の貫通を目指し、南北両端から数センチの誤差を保ちながら同時に掘削が進められており、この高度な技術力には日本を含む各国の関係者も高い関心を寄せています。
◾️独自の掘削アプローチと複雑な地質への対応
本プロジェクトの最大の特徴は、他国で主流のトンネル掘削機(TBM)ではなく、ノルウェーが得意とする「ドリル・アンド・ブラスト(穿孔爆破)方式」を採用している点にあります。これは、氷河期に形成されたノルウェー特有の複雑な岩盤に対して柔軟に対応するための選択であり、レーザースキャンで正確な軌道を維持しつつ、1回の爆破で約5〜6メートルを掘り進めています。
ルート上の地質は千枚岩や花崗岩、片麻岩など多岐にわたり、短距離でも岩質が急激に変化します。そのため、約80メートル進むごとに音波探査を行って岩石の強度を5段階で評価しています。その結果に基づいて、鋼鉄の棒から鉄筋コンクリートのアーチまで適切な補強構造を選択し、壁面は鋼繊維入りの液体コンクリート(吹付けコンクリート)によって強固に密閉され、100年の耐久性を持つよう設計されています。
◾️湧水との絶え間ない戦い
海底深部のトンネル工事において最大の脅威となるのが、頭上の海から押し寄せる莫大な水圧と海水の侵入です。現場では爆破を行う前に、岩肌に25〜30メートルの探査穴を複数開け、漏水量を慎重に確認しています。
もし1つの穴からの漏水が毎分約4リットルを超えた場合は、「グラウト注入」と呼ばれるセメント状の混合物を注入する作業が行われます。これにより岩の隙間を塞いで水を押し返し、安全な状態を確保してから初めて爆破工程へと移るという、水との終わりのない戦いが続けられています。
◾️巨大プロジェクトを支える安全・環境対策
工学的な課題の克服だけでなく、運用面の安全性や自然環境への多角的な配慮もプロジェクトの重要な柱です。自動車の排気ガスを処理するため、トンネルの中間地点にあたるクヴィッツォイ島の地上から地下トンネルに向けて、幅9メートルの巨大な換気シャフトが吸気用と排気用として2本建設されています。また、直線で約30分かかるトンネル内の単調な運転はドライバーの眠気を誘発する恐れがあるため、照明や色彩、形状を工夫した空間デザインを取り入れることで、注意力を維持する対策も導入される予定です。
一方、爆破によって発生する約850万立方メートル(オリンピック用プール2,500個分以上)の掘削土砂は、新たな土地を造成するための埋め立てに活用されています。はしけを用いて海中へ投下する際は、地域の重要な産業であるロブスター漁やタラの繁殖環境を守るため、水中の微粒子レベルをリアルタイムで監視しています。基準を超えた際には岩が海底に沈殿するまで作業を一時停止するなど、厳格な環境保護策が講じられています。
さらに、過酷な地下空間での車両火災などのリスクに備え、トンネル内の随所にレスキューチャンバーが設置されています。チャンバー内には最大16人が避難でき、24時間分の酸素や水、チョコレート、無線機、除細動器などが完備されており、万が一の事態に対する備えも徹底されています。
元記事はこちら






