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「企業誘致」の時代は終わった― 都市は、誰に住み続けてもらうかをどう設計するのか ―Frisco, Texas — When a City Is Designed as an Operating System

「企業誘致」の時代は終わった― 都市は、誰に住み続けてもらうかをどう設計するのか ―Frisco, Texas — When a City Is Designed as an Operating System

米国テキサス州北部に、Frisco(フリスコ)という都市がある。ダラスの中心部から北へ約40キロメートル。かつては何もない郊外だったこの街が、2016年からのおよそ10年で、アメリカを代表する成長都市に変わった。全米プロゴルフ協会(PGA of America)の本部、NFLダラス・カウボーイズの本部兼練習施設The Star、高級住宅街、巨大なゴルフリゾート、ハイテク企業群、データセンター開発――現地に立つと、都市が未来へ一気にスキップしたような感覚すら覚える。

重要なのは、これが不動産開発の成功譚ではないことだ。Friscoでは、生活、教育、AI、スポーツ、資本が、一つの「都市OS(Operating System)」として統合され始めている。

LONGNOWは、産業の側で同じ構造を「産業OS」と呼んできた。設備や制度を一つずつ足していくのではなく、それらをつなぐ層をどう設計するかで勝負が決まる、という見方である。Friscoで起きているのは、その都市版だ。そしてここには、日本の地方創生にとって極めて重要な示唆がある。


図1 足し算の都市と、層を持つ都市(概念図であり実測値ではない)



01 Friscoは、企業ではなく人を誘致した

日本の地方行政では、いまも工場誘致、補助金、商業施設開発、観光PRが主要な政策になりがちだ。

Friscoが行ったのは、まったく違うことである。彼らはまず、「どのような人材に住んでもらうか」を定義した。狙ったのは、高所得の知識労働者、ハイテク人材、子育て世帯、富裕層のコミュニティである。そのうえで整備したのが、優秀な学区、安全な街、広い住宅、スポーツ施設、高品質な生活環境、そしてAI時代に対応するインフラだった。

つまりFriscoは、「企業誘致」ではなく「人材誘致」を行ったのである。そして現代では、優秀な人材が集まる場所へ、企業が後から来る。ここが20世紀型の都市政策との決定的な違いだ。


02 AI時代、都市競争の本質は変わった

20世紀の都市競争を決めたのは、港、鉄道、工場、オフィス街、金融街だった。主役は産業設備である。

しかしAI時代の最大の資産は、高所得の知識労働者へ移った。すると都市政策も変わる。問われるのは、どれだけ企業を誘致したかではない。どれだけ優秀な人材が住み続けたいと思うか、である。

Friscoが強いのは、ここだ。


03 教育は「福祉」ではなく「産業インフラ」

Friscoでは学区(Frisco ISD)が極めて重視されている。なぜか。AI時代のエンジニアや経営人材ほど、「どこで働くか」より「子どもをどこで育てるか」で居住地を選ぶからだ。教育は、都市にとっての「人材再生産システム」になっている。

それは建前ではない。カウボーイズの本部施設The Starも、PGA of Americaの本部を核とする開発も、市とFrisco ISDが当事者として加わる官民連携として組まれている。学区は開発の受益者ではなく、設計者の側にいる。

これは日本の地方都市にとって重要な視点である。人口減少の時代において、学校は単なる行政コストではない。むしろ、未来の税収と産業競争力を生む都市OSの中核なのだ。


04 スポーツは「都市装置」になった

Friscoには、NFLダラス・カウボーイズの本部、PGA of Americaの本部、MLSのFCダラスが集積している。

日本ではスポーツは「娯楽」と捉えられがちだ。しかし米国では違う。スポーツは、観光、不動産、富裕層コミュニティ、メディア、ブランド、企業投資を一気に動かす「巨大な都市同期装置」として機能している。

実際、PGA Frisco周辺では、高級住宅、ホテル、商業施設が一体で開発され、都市の価値そのものを押し上げている。今後の地域競争では、どのような「体験価値」を持つ都市かが決定的になる。


05 都市そのものが「プラットフォーム」になる

Friscoの本質は、単なる郊外住宅地ではない。都市そのものが、教育、AI、住宅、医療、スポーツ、消費、コミュニティを接続する「プラットフォーム」になっている。これは「次世代都市OS」と呼ぶべき構造である。

20世紀の都市は、「働く場所」を中心に設計された。しかし21世紀の都市は、「豊かな人生そのもの」を設計する競争へ移っている。だからFriscoでは、オフィスだけでなく、ゴルフ、学校、高級住宅、AIインフラ、レストラン、コミュニティが一体で設計されているのだ。


06 日本の地方創生に必要な視点

日本は今後、人口減少を前提に都市政策を考えざるを得ない。それでも、成長する地域は必ず現れる。

その鍵は、「何を建てるか」ではない。「誰に住み続けてもらうか」である。そしてその競争力は、教育、生活品質、デジタルインフラ、文化、スポーツ、コミュニティの統合によって決まる。

地方行政に求められるのは、道路整備だけではない。

Friscoは、その未来像を先行して示している。


執筆:加登吉邦(LONGNOW K.K.)

注:図1は本稿の論旨を示す概念図で、実測値ではない。本稿の年次は、The Starの開業(2016年8月)およびPGA of America本部の開業(2022年8月)を基準とする。施設の名称・開業年はFrisco市およびPGA of Americaの公表資料による(2026年6月時点)。PGA of Americaは、PGAツアーとは別の団体である。

未来へ続く今を、動かす。 Now, for the Long.


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