人工知能は、どれだけの電力を使うのか。データセンターの新設計画、系統接続の待ち行列、発電能力の増強。投資と政策の判断に、総量は欠かせない。しかし、総量が増えることと、その設備の優位が長く続くことは、同じではない。
結論を先に置く。総量に加えて、需要と効率の変化を数える必要がある。一定の品質を満たす仕事がどれだけ増え、その仕事を同じ電力量でどれだけ多く処理できるようになったか。二つの増加率の関係が変われば、電力需要の方向も変わりうる。
前連載「何を数えるか」は、明治以降の歴史を材料に、優位を測る四つの問いを提示した。本連載はその問いを、進行中のAIインフラ投資に当てる。歴史との類似を結論にせず、事実と仮説を分けて読む。
0. 本稿が主張しないこと
本稿は、電力需要が何年に何TWhになるかを予測しない。公表機関の推計・見通しと、条件を確かめるための数値例を分ける。以下の式は、品質と対象をそろえたタスク群についての整理であり、世界のAI需要を直接推計したものではない。
扱うのは一点のみである。いま、何が数えられているか。
1. 945テラワット時という数字
国際エネルギー機関(IEA)の2025年版は、世界のデータセンター消費電力量を2024年約415TWh、2030年約945TWhとした。2026年版では、2025年約485TWhから2030年約950TWhへの増加を見込む。2025年の増加率は全体で17パーセント、AI特化型で50パーセントである。これらはデータセンターの推計・見通しであり、端末を含むAI全体の電力ではない。[1][2]
短中期の需要増加は、現時点の中心的な見通しである。系統接続に5年から10年を要する地域もある。[2] 総量は設備計画に必要だ。ただし、世界の電力量が増えるだけでは、個々の地域や設備で希少性が続くとは言えない。
AIの利用が増えれば電力も増える、と一対一に考えることはできない。効率化が単価を下げ、用途を増やす力と、同じ仕事に必要な電力を減らす力が、同時に働くからである。
2. 効率化だけでは、総量は決まらない
1865年、英国の経済学者ジェボンズは『石炭問題』で、石炭利用の効率改善が消費の減少を保証しないと論じた。効率のよい蒸気機関は利用を安くし、新たな用途を成立させる。[3] ただし、効率化がつねに消費増を招くという普遍則ではない。どれほど需要が増えるかによって、結果は変わる。
AIにも同じ問いが立つ。文章の要約が安くなれば、従来は読まれなかった文書まで処理できる。省電力化の効果を判断するには、1件当たりの電力量と、処理する件数の両方が要る。
構造を数値の例で示せば、図1の通りである。1タスクの消費電力量が100分の1になっても、利用回数が1,000倍になれば、総消費電力量は10倍になる。

図1 タスク当たり電力量と総消費電力量
出典:LONGNOW作成。概念図・例示であり、実測値ではない。
IEAは、近年のAIタスク当たりエネルギーが、ソフトウェアとハードウェアの進歩で年に少なくとも1桁減ってきたと報告する。一方、動画生成や多段の推論、エージェント処理(AIが一連の作業を自律的に遂行する用途)では、単純なテキスト生成より数百倍から数千倍を要する場合がある。[2] 同じ仕事の効率改善と、仕事の中身の変化を混ぜてはならない。
効率化は、同じ仕事の電力を減らす。総量は、増えた仕事も合わせて決まる。
3. 数式は、二行で足りる
転換の条件を、同じ品質を満たすタスク群に限って考える。ここでは件数をQ、1件当たり電力量をe、総消費電力量をEとする。
E=Q×e。件数が年率gで増え、同じ電力量で処理できる件数が年率rで増えると、翌年のEは前年のE×(1+g)÷(1+r)になる。したがって、その年にEが減る条件はg<rである。rは電力量の削減率ではない。1件当たり電力量が半減すれば、処理件数は2倍になり、rは100パーセントとなる。この関係の逆転を、本連載ではAI Energy Crossoverと呼ぶ。1年の減少だけで、その後の持続的なピークアウトまでは確定しない。

図2 需要増加率と電力効率向上率の関係
出典:LONGNOW作成。概念図・例示であり、実測値ではない。
rの側には、歴史の教訓がある。Koomeyらが調べたピーク出力時の計算効率は、2000年ごろまで約1.6年で倍増したが、その後の倍増期間は約2.6年へ延びた。[4] これは計算装置の歴史的傾向であり、そのまま現在のAIタスクや稼働中の設備全体へ外挿できない。
アルゴリズムも効く。OpenAIの2020年分析では、ImageNetで一定の画像分類性能に達する学習計算量が、2012〜2019年に約16か月で半減した。[5] タスク当たり効率は、必要計算量と装置の効率の双方で変わる。ただし、すでに両方を含むタスク当たりの測定値へ、同じ改善を重ねて掛けてはならない。学習の結果を推論へ一律に当てることもできない。
【語の定義】AI Energy Crossover同じ品質・対象で、需要の増加率と電力効率の向上率の関係が逆転すること。
4. 四つの問いを、AIの語彙へ
前連載の四つの問いを、AIの語彙に置き換える。いつ希少になったか。制度に依存しているか。容量の上で何が決められているか。いま増設を縛っているものは何か。いずれも、答えを先に決めるためではなく、変化の条件を探すための問いである。
表1 四つの問いと連載の対応

表1が連載の地図である。総量から始め、場所、配置、制約の置き換えへと進む。
5. いま数えられているもの、数えるべきもの
先端GPUの調達や電力への接続は、生成AI向けの投資拡大で制約が強まった。[2] しかし、供給制約が最近強まったことだけでは、その寿命を判定できない。追随に必要な時間、制度、立地、供給者の判断を分けて調べる必要がある。
転換条件は書ける。だが、世界全体のgとrを同じ定義で毎年測る統計は整っていない。IEAもAI利用の頻度と深さに関する包括的な統計の不足を指摘する。[2] 当面は品質をそろえた測定と個別事例を追い、観測できる範囲を明記する。最終回で、その計器と欠測を並べる。
次回は、効率化が変えうるもう一つのものを扱う。計算の場所である。総電力量が増えている間にも、端末で実行できる仕事は広がりうる。
総量は規模を示す。優位の持続には、その条件を重ねて読む。
結語 ― 問いさえ立っていれば
電力の増加は、優位の持続を保証しない。効率の改善も、総量の減少を保証しない。必要なのは、需要の中身と効率を同じ物差しで追い、その関係が変わる条件を確かめることである。
問いを立てれば、何を測れていないかも見える。転換点は予言する日付ではなく、観測を続けるための条件である。
電力を数える。その増え方を変える条件も数える。
出典注記
本稿のEは対象タスク群の消費電力量である。データセンター全体には非AI用途も含まれ、端末の電力はその外にある。図はLONGNOW作成の概念図であり、実測値でも将来予測でもない。
出典中の過去の測定結果は対象期間・タスクに限る。公表機関の2030年値は見通しであり、gとrの観測値ではない。
[1] IEA, Energy and AI, 2025, Executive summary/Energy supply for AI. 消費415TWhと供給側発電460TWhを区別。 原資料
[2] IEA, Key Questions on Energy and AI, 2026, Executive summary/第1章。推計・見通しと効率、データ制約。CC BY 4.0。 原資料
[3] W. S. Jevons, The Coal Question, 初版1865年。参照版1866年、第VII章。 原資料
[4] J. Koomey, Our analysis of the electricity intensity of networks was published last month, 2017. 2011年研究と後続分析の整理。 原資料
[5] D. Hernandez and T. Brown, Measuring the Algorithmic Efficiency of Neural Networks, 2020. 原資料