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同じ計器で、測る 第0号 AI定点観測を始めるにあたって、何を数え、何を数えないかを先に述べる

同じ計器で、測る 第0号 AI定点観測を始めるにあたって、何を数え、何を数えないかを先に述べる

計器を後から選ぶ者は、必ず都合のよい計器を選ぶ。

本連載は四半期ごとに同じ数字を追う。追い始める前に、何を数え、何を数えないかを宣言しておく。宣言してしまえば、後から都合よく選び直せなくなる。それがこの回の目的である。

名鑑は、測定ではない

今年8月、ある雑誌がAIの世界で最も影響力のある100人を選んだ。四つに分けられた区分のうち、指導者として選ばれた23件を読むと、ひとつの傾向がはっきり出ている。計算基盤・半導体・データセンターの供給側が7件を占め、基盤モデルを開発する研究機関は4件にとどまる。

さらに目を引くのは不在のほうである。この一年、AI投資の象徴として語られ続けた半導体大手の最高経営責任者が、指導者の区分に入っていない。その企業からは、環境負荷を担当する責任者が別の区分に一人選ばれているだけである。

つまり業界の内側は、いま重心をモデルではなく供給網に見ている。しかもその供給網を、単一の支配者ではなく、相互接続・記憶素子・代替アーキテクチャ・受託製造といった周縁に分散して捉えている。

ただし、これは測定ではない。編集部の選定であって、市場構造の実測値ではない。同じ布陣は二通りに読める。ひとつは、AIの主戦場が実際にモデルから物理資源へ移ったという読み。もうひとつは、モデル側の序列が固まって記事にならなくなったので、まだ動いている周縁が選ばれたという読みである。前者なら投資判断の材料になるが、後者は新規性への偏りにすぎない。

名鑑には名鑑の価値がある。業界が自らをどう認識しているかを示すからだ。しかしそれは実測とは別の種類の情報であり、両者の乖離こそが読むべきものになる。だから実測の側を、こちらで用意する。

なぜ四本に絞るのか

指標を選ぶ基準は一つだけに置いた。

発表者が虚偽を述べた場合に、発表者自身が不利益を被る記録であること。


この基準は、除外するもののほうを明確にする。企業の発表資料、製品の告知、調査会社による市場規模の推計は採らない。いずれも、大きく述べたほうが得をする立場の人が作った数字だからである。代わりに、監査を経た決算開示、系統運用機関への申請、公的統計を採る。虚偽が罰せられるか、少なくとも訂正を強いられる記録に限る。

もう一つ決めたのは、網羅しないことである。四本に固定し、増やさない。

定点観測が壊れる最大の原因は、途中で指標を差し替えることにある。差し替えた瞬間に前後の比較ができなくなり、残るのは後知恵の解説だけになる。網羅性を求めれば指標は毎年増える。増えれば、その年に都合のよい指標を前に出す誘惑が生じる。だから最初から少なく固定する。

何を数えるかという問いそのものについては、本誌の研究報告「何を数えるか」で扱った。本連載はその応用にあたる。計器の設計を論じたのが前者で、計器を固定して使い続けるのが後者である。

四つの計器と、いまの目盛り

層ごとに一本ずつ、計四本を置く。今回はまず米国を対象とする。


それぞれの性格を短く述べる。

設備投資は、監査を経た法定開示であり、四本のうち最も改竄の費用が高い。ただし建設中の資産を含むため、稼働までに時差がある。直近の2026年第1四半期は1,298億ドルで、前年同期の719億ドルから約80%増えた。2025年の通年では約3,760億ドルになる。この計器は各社が四半期報告書に計上する有形固定資産の取得額を合計したものであり、会社が公表する投資計画とは基準が異なる。

系統接続申請は、企業が電力を確保しようとした事実そのものを残す。設備投資より早く動くが、申請が実現する保証はない。過去の実績では、審査に入った案件のうち接続に至るのは半分に満たない。四本のうち最も脱落が多い計器だと承知して読む必要がある。

事業所のAI利用率は、公的統計としては異例に速い。隔週で更新される。ただし「使った」の判断が回答者に委ねられるため、水準そのものより変化の向きを見る。いまは19.8%、業種別では情報通信が39.7%、金融・保険が33.9%と高い。

求人比率は、労働市場が実際に何を買っているかを示す。四本のうち最も遅れて動くが、投資が実需に変わったかどうかを判定できるのはこの計器だけである。AI関連の求人比率は5.9%で、2022年につけた3.3%という前の山をすでに大きく超えている。

すでに、乖離が見えている

四本を並べた時点で、ひとつの食い違いが出ている。

資源の側は加速している。設備投資は直近の四半期で前年同期から約80%増え、系統への接続申請はテキサス一州だけで前年の約4倍に膨らんだ。

一方、普及の側は動いていない。事業所のAI利用率は昨年12月から今年5月まで、17%から20%の狭い幅を出ていない。労働の側も、AI関連の求人比率は伸びているものの、求人全体の指数は前年を3.7%下回っている。

投資は増え、使用は横ばいで、雇用の総量は減っている(図1)。

図1 三つの層を、共通の時間軸で並べたもの

この構図は、二通りに読める。

読み方その一 時差である

データセンターは着工から稼働まで年単位を要する。今年の投資が業務に届くのは来年以降になる。普及と労働が動かないのは、まだ順番が来ていないだけだと読める。この読みが正しければ、普及率は2027年に入って明確に上がり始める。


読み方その二 転換していない

見落としてはならないのは、この調査が昨年11月に設問を広げていることである。以前は「財やサービスの生産に使ったか」を尋ねていたのを、「いずれかの業務で使ったか」に緩めた。基準を緩めたにもかかわらず、利用率は20%を明確には超えていない。緩めても超えないということは、供給側の投資が需要側の使用に変換されていない可能性を示す。


現時点でどちらが正しいかは判定できない。判定するには時間が要る。だから四半期ごとに同じ計器で測る。

三つの約束

本連載が読者に対して負う約束は三つある。

第一に、指標を動かさない。四本は固定し、追加も削除もしない。数字が期待と違ったからという理由で計器を替えることはしない。

第二に、刊行の時期を動かさない。数字が揃わない回があっても、その回は欠測として書く。都合のよい数字が出るまで待つ運用を一度でも許せば、以後はそれが常態になる。

第三に、毎回の末尾に次回時点で検証できる予測を一つ置き、次回の冒頭でその答え合わせから始める。外れたときは外れたと書く。弁明はしない。

この三つ目が本連載の中身である。各回の分析そのものより、この観測系がどれだけ当たるかという履歴の蓄積に価値がある。

あわせて、例外を先に開示しておく。

電力の計器については、外部の制度変更がすでに予告されている。米連邦エネルギー規制委員会は今年6月、全ての広域系統運用機関に対し、大規模需要家の接続規則について説明を求めた。テキサス州の規制当局も、重複申請の開示を含む新しい要件を年内に定める予定である。したがってこの層に限り、2027年前半に一度だけ定義の変更を認める。変更する回では旧定義と新定義を併記する。認めるのはこの一度だけであり、他の三層には適用しない。

後から例外を作れば規律は崩れる。だから先に、範囲を限って開示しておく。

第1号への予測

次号は11月中旬、2026年第3四半期を扱う。

予測は、四本のうち最も当てにくい普及の層に置く。当てやすい層を選べば履歴は見栄えよく積み上がるが、それでは検証の意味がない。

予測

2026年11月中旬の時点で参照できる直近の値において、米国の事業所のAI利用率は21.0%を超えない。

基準は2026年5月初旬時点の19.8%。設問を広げてから半年が経っており、拡張の押し上げ効果はすでに織り込まれていると考える。超えれば、上に記した「時差である」という読みが強まる。


図2 基準線と、次号で答え合わせをする区間

日本編について

本連載には日本編を置くが、米国編と同じ形は取らない。

日本の統計は米国より遅く、粒度も粗い。同じ器に入れれば、日本編は毎回「まだ数字が出ていない」の報告になる。そこで問いを変える。米国編が「前線はどこにあるか」を追うのに対し、日本編は「米国で観測されたことが、日本にいつ、どの形で届いたか」を追う。

この建て付けなら、数字が薄い回でも成立する。届いていないこと自体が、観測の結果になるからである。日本編は年二回、6月と12月に置く。

最後にひとつ、あらかじめ断っておきたいことがある。日米を並べれば、論旨は「日本は遅れている」へ引き寄せられる。だがそれは分析ではなく、初めから決まっている結論である。本連載では毎回、実装が遅いことが結果として有利に働いた例を一つ探すことにする。失敗の費用を先行者に払わせ、固まってから採る構造は、装置産業と重工業で何度も観測されてきた。

結語 計器は、もう動かせない

四つの計器と、三つの約束を述べた。書いてしまった以上、これらはもう動かせない。数字が思わしくない回が来ても、別の指標を持ち出すことはできない。そのために先に書いた。

次号は11月中旬。冒頭は、この号で置いた予測の答え合わせから始まる。当たっていれば一行で済む。外れていれば、なぜ外れたかを書く。どちらの回も、履歴としては同じ重さを持つ。

AIをめぐる数字は、これからも毎週のように更新される。そのたびに新しい見方が提案され、新しい計器が勧められる。本連載はそれを採らない。同じ計器で、測り続ける。


数値の出所

設備投資は各社の四半期報告書および決算説明。系統接続申請はテキサス州系統運用機関の公表資料。事業所のAI利用率は米センサス局の事業動向・見通し調査(2026年5月3日終了期)。求人比率は求人媒体が公開する指数(2026年6月)。名鑑の集計は同誌の公開ページに基づく。

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